通関士試験で出題される「特殊関税」とは?
特殊関税とは、通常の関税(一般税率や協定税率)とは別に、特別な事情に応じて課される関税のことです。貿易上の不公正な慣行に対抗したり、特定の政策目的を達成するために導入されます。
この記事では、特殊関税の種類(便益関税・報復関税・相殺関税・不当廉売関税・緊急関税)についてわかりやすく整理し、それぞれの定義や条文、試験対策のポイントを詳しく解説します。
便益関税
関税定率法第5条(便益関税)
関税についての条約の特別の規定による便益を受けない国(その一部である地域を含む。以下この条、次条第一項及び第二項並びに第九条第四項において同じ。)の生産物で輸入されるものには、政令で定めるところにより、国及び貨物を指定し、当該規定による便益の限度を超えない範囲で、関税についての便益を与えることができる
定義:関税に関する条約の特別の規定による便益を受けていない国の生産物に対し、政令で国と貨物を指定して、一定の範囲内で便益的な関税を課すことができる制度です。
キーワード:
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条約の特別規定の便益を受けない国
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政令指定で国と貨物を指定
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協定税率の便益の範囲内で設定
対策ポイント:
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便益関税は、WTO非加盟国や協定税率の対象外の国にも、特別に優遇措置をとるための制度です。
報復関税
関税定率法第6条(報復関税等)
- 世界貿易機関を設立するマラケシュ協定(以下この条、次条及び第九条において「世界貿易機関協定」という。)に基づいて直接若しくは間接に本邦に与えられた利益を守り、又は世界貿易機関協定の目的を達成するため必要があると認められるときは、次の各号に掲げる国から輸出され、又はその国を通過する貨物で輸入されるものには、当該各号に定める承認の範囲内において、政令で定めるところにより、国及び貨物を指定し、別表の税率による関税のほか、当該貨物の課税価格と同額以下の関税を課することができる。
- 本邦の船舶若しくは航空機又は本邦から輸出され、若しくは本邦を通過する貨物について、他国の船舶若しくは航空機又は他国から輸出され、若しくは他国を通過する貨物よりも不利益な取扱いをする国から輸出され、又はその国を通過する貨物で輸入されるものには、政令で定めるところにより、国及び貨物を指定し、別表の税率による関税のほか、その貨物の課税価格と同額以下の関税を課することができる。ただし、前項第一号に規定する紛争解決機関の手続に委ねられるべき場合は、この限りでない。
定義:日本がWTO協定などで得ている利益を侵害された場合などに、対抗措置として追加関税を課すことができる制度です。
キーワード:
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WTO協定上の利益を守る目的
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対象国・貨物を政令指定
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課税価格と同額以下の追加関税
対策ポイント:
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各国との協定以外の特定の国からの不利益を被る措置をされた際に発生させる。
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「課税価格と同額以下の関税を課すことができる」点が留意点です。
相殺関税
関税定率法第7条
1 外国において生産又は輸出について直接又は間接に補助金の交付を受けた貨物の輸入が本邦の産業(当該補助金の交付を受けた輸入貨物と同種の貨物を生産している本邦の産業に限る。以下この条において同じ。)に実質的な損害を与え、若しくは与えるおそれがあり、又は本邦の産業の確立を実質的に妨げる事実(以下この条において「本邦の産業に与える実質的な損害等の事実」という。)がある場合において、当該本邦の産業を保護するため必要があると認められるときは、政令で定めるところにより、貨物、当該貨物の輸出者若しくは生産者(以下この条及び次条において「供給者」という。)又は輸出国若しくは原産国(これらの国の一部である地域を含む。以下この条及び次条において「供給国」という。)及び期間(五年以内に限る。)を指定し、当該指定された供給者又は供給国に係る当該指定された貨物(以下この条において「指定貨物」という。)で当該指定された期間内に輸入されるものにつき、別表の税率による関税のほか、当該補助金の額と同額以下の関税(以下この条において「相殺関税」という。)を課することができる。ただし、当該補助金の交付を受けた貨物の輸入の本邦の産業に与える実質的な損害等の事実を理由として前条第一項の規定による措置(第一号に係るものに限る。)その他の同号に規定する紛争解決機関による承認を受けた措置がとられている場合は、この限りでない。
4 前項の相殺関税は、当該相殺関税を課されることとなる貨物の輸入者が納める義務があるものとする。
5 第一項に規定する本邦の産業に利害関係を有する者は、政令で定めるところにより、政府に対し、補助金の交付を受けた貨物の輸入の事実及び当該輸入の本邦の産業に与える実質的な損害等の事実についての十分な証拠を提出し、当該貨物に対し相殺関税を課することを求めることができる。
6 政府は、前項の規定による求めがあつた場合その他補助金の交付を受けた貨物の輸入の事実及び当該輸入の本邦の産業に与える実質的な損害等の事実についての十分な証拠がある場合において、必要があると認めるときは、これらの事実の有無につき調査を行うものとする。
7 前項の調査は、当該調査を開始した日から一年以内に終了するものとする。ただし、特別の理由により必要があると認められる場合には、その期間を六月以内に限り延長することができる。
定義:外国政府の補助金により価格が下がった輸入貨物が日本の産業に損害を与える場合に、その補助金相当額を追加で課税する関税です。
キーワード:
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補助金を受けた輸入貨物
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日本産業への実質的損害
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補助金額と同額以下の関税を追加
対策ポイント:
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「補助金」=「不公平な価格競争」への対応としての制度です。
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すべての要件を満たしている際に課すことができる
①直接または間接に補助金の交付を受けた貨物の輸入がされること
②この不当廉売により、本邦の産業に実質的な損害を与え、若しくは与えるおそれがある
③本邦の産業を保護する必要がある
- 通常の関税プラス相殺関税を課すことができる
- 輸出者もしくは生産者、輸出国もしくは原産国及び期間(5年以内)を定め相殺関税を課す
- 相殺関税は貨物の輸入者が納める義務がある
- 政府による調査は1年以内調査可能(必要がある際は6カ月以内に延長可能)
不当廉売関税
関税定率法第8条
不当廉売(貨物を、輸出国における消費に向けられる当該貨物と同種の貨物の通常の商取引における価格その他これに準ずるものとして政令で定める価格(以下この条において「正常価格」という。)より低い価格で輸出のために販売することをいう。以下この条において同じ。)された貨物の輸入が本邦の産業(不当廉売された貨物と同種の貨物を生産している本邦の産業に限る。以下この条において同じ。)に実質的な損害を与え、若しくは与えるおそれがあり、又は本邦の産業の確立を実質的に妨げる事実(以下この条において「本邦の産業に与える実質的な損害等の事実」という。)がある場合において、当該本邦の産業を保護するため必要があると認められるときは、政令で定めるところにより、貨物、当該貨物の供給者又は供給国及び期間(五年以内に限る。)を指定し、当該指定された供給者又は供給国に係る当該指定された貨物(以下この条において「指定貨物」という。)で当該指定された期間内に輸入されるものにつき、別表の税率による関税のほか、当該貨物の正常価格と不当廉売価格との差額に相当する額(以下この条において「不当廉売差額」という。)と同額以下の関税(以下この条において「不当廉売関税」という。)を課することができる。
定義:輸出国の国内価格より著しく安い価格(ダンピング価格)で輸入された貨物に対し、その差額相当の関税を追加で課す制度です。
キーワード:
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ダンピング(不当廉売)
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国内産業への実質的損害または脅威
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通常価格と輸出価格の差額以下の関税
対策ポイント:
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「不当廉売」=「ダンピング」への対応策です。
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すべての要件を満たしている際に課すことができる
①正常価格より低い価格で輸出する不当廉売が行われていること
②この不当廉売により、本邦の産業に実質的な損害を与え、若しくは与えるおそれがある
③本邦の産業を保護する必要がある -
輸出者もしくは生産者、輸出国もしくは原産国及び期間(5年以内)を定め不当廉売関税を課
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政府による調査は1年以内調査可能(必要がある際は6カ月以内に延長可能)
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相殺関税との違い(補助金 vs ダンピング)を区別することが試験対策上重要です。
緊急関税
関税定率法第9条
外国における価格の低落その他予想されなかつた事情の変化による特定の種類の貨物の輸入の増加(本邦の国内総生産量に対する比率の増加を含む。)の事実(以下この条において「特定貨物の輸入増加の事実」という。)があり、当該貨物の輸入が、これと同種の貨物その他用途が直接競合する貨物の生産に関する本邦の産業に重大な損害を与え、又は与えるおそれがある事実(以下この条において「本邦の産業に与える重大な損害等の事実」という。)がある場合において、国民経済上緊急に必要があると認められるときは、政令で定めるところにより、貨物及び期間(第八項の規定により指定された期間と通算して四年以内に限る。)を指定し、次の措置をとることができる。ただし、指定しようとする貨物のうちに、経済が開発の途上にある世界貿易機関の加盟国を原産地とし、その輸入量が本邦の当該貨物の総輸入量に占める比率が小さいもの(以下この項及び第八項において「輸入少量途上国産品」という。)が含まれている場合には、当該輸入少量途上国産品については、指定から除外するものとする。
定義:予想外の事態により特定貨物の輸入が急増し、日本の産業に重大な損害を与える場合に、緊急的に関税を課す制度です。
対策ポイント
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外国における価格の低落その他予想されなかった事情の変化いにより、特定の貨物の輸入が増加し、同種の貨物が本邦の産業に重大な損害を与え、又は与えるおそれがある場合に緊急関税を課す
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「貨物・期間(通算4年以内)」を指定。
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政府調査は原則1年以内、特別な事情があれば延長可能。
特殊関税の試験対策はどうすればいいの?
通関士試験では、条文そのものよりも適用条件や各関税の違いが問われます。以下の対策ポイントを押さえておきましょう。
1. 違いを比較して整理する
種類 | 主な対象 | ポイント |
---|---|---|
便益関税 | 非加盟国など | 特別に優遇措置を与える |
報復関税 | 不利益措置を行った国 | 対抗措置として追加関税 |
相殺関税 | 補助金を受けた貨物 | 損害を補うため補助金相当額の関税 |
不当廉売関税 | 正常価格を下回るダンピング | 価格差を関税として徴収 |
緊急関税 | 予想外の輸入急増 | 重大な損害を防ぐための一時的措置 |
2. 条文の構造をつかむ
それぞれの関税の根拠条文(関税定率法第5~9条)は、要件→措置→調査といった流れで構成されています。**「何が起きたら」「誰が指定するのか」「何をどれだけ課すのか」**を順序立てて整理しましょう
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特殊関税は法的な文章も複雑なので、しっかり解説されたテキストで繰り返し確認するのが合格への近道です。
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まとめ
特殊関税は種類が多く一見難しそうですが、それぞれの目的と条件を理解すれば整理しやすい分野です。
覚えるコツは「だれに対して・なぜ課されるか」を意識すること。
通関士試験では「何のための関税なのか?」を理解して区別する力が問われます。
ぜひ、この記事を活用して苦手意識をなくしていきましょう!
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